自己紹介(2024/12/27更新)
はじめまして。
漢方誠芳園薬局 中西拳太郎(薬剤師)です。
家族が新井先生の漢方で良くなったことをきっかけに漢方薬に興味を持ち、
青森から誠芳園に修行に来て2年半になりますが、誠芳園は一般の漢方と違って
西洋薬と漢方薬の良いところどり(第三医学)ですので
漢方はもちろん、西洋医学や病態生理、検査値など、
まだまだ勉強することは山ほどあります。
一意専心、温故知新の精神で頑張っています。
子育ても同時進行中です。
皆様が前を向ける、明るくなれるための手助けができるよう日々奮闘中です。
ブログでは、日々の中で学んだことや気付いたこと、
伝えたいことを少しずつ書いていきます。
よろしくお願いいたします。
カゼには葛根湯?(2025/1/25更新)
「カゼに葛根湯」「漢方と言えば葛根湯」そんなイメージが根強くあると思います。
私も大学で最初に学んだ漢方は葛根湯ですし、葛根湯を飲めばカゼが治ると思っていました。
しかし、漢方を勉強していくと、葛根湯は発汗解表薬というものの一つで、
カゼの初期にうまく発汗できなければすばやくカゼを治すことができない
ということが分かってきました。
漢方では発汗療法というものがあり、たとえ発熱があっても寒気があれば
体の表面を温める作用のある薬物で体温を上げて、発汗を促して病気を治していきます。
発病し、体温が上昇し始めるとⓐ~ⓑの間では寒気や頭痛などの表証がありますが、汗はまだ出ません。
ⓑまでくるといくら体を温めても、もうそれ以上は体温が上がらなくなり、
寒気はなくなり、熱いと感じたり、発汗が始まります。
このⓐ~ⓑの間でしっかり体を温めることで、
寒気の期間を短くして速くⓑ点の体温まで上げることができ、汗をかくことができます
この場合の汗のかき方は、布団を覆ってしばらく温めて、体中から汗がジトッと汗ばむくらいがよいです。
下着を2~3回変える程度と言った方がわかりやすいでしょうか。
(流れるほど発汗してしまっては逆効果になりますのでご注意ください。)
この発汗状態を4~6時間くらい続けると、頭痛などの表証もなくなり、熱も下がり、病が治っていきます。
また、発汗療法ですので
「葛根湯のエキスを1回1包 1日3回 食前または食間に」という服用ではなく
温服して布団をかぶってしっかり体を温めながら、
一服で汗が出て病気がよくなると、一服だけでもうそれでよいです。
必ず一日分全部を飲まなければいけないわけではない。
ただ、汗のない時は服用間隔を短くし、汗が出るまで服用していくことが大切になります。
病を治すには西洋医学も漢方もいいところ取りをすればよいと私は思います。
ではよりよい治療をするためにはどうすればいいか。
山本巌先生は
「処方を構成する生薬の薬効を知り、処方になった理由を知れば漢方を使いこなすことができる。
生薬のどの薬効の成分が、どう配合されているかを考えなければならない。」と言われています。
今回の例でいえば葛根湯を盲目的に使うのではなく、一つ一つの生薬を知らなければいけない。
そこでどんな生薬で構成されているかを見てみると
葛根 麻黄 桂枝 芍薬 甘草 大棗 生姜 の7種類からできています。
麻黄 桂枝 ・・・・・・発汗解熱作用、鎮痛作用 生姜 ・・・・・・・・・発汗解熱作用 葛根 芍薬 甘草 ・・・鎮痛・鎮痙作用(筋肉の緊張を緩める) 生姜 大棗 甘草 ・・・健胃作用 |
こうしてみると、カゼの症状でよくある咳やタンに対する生薬が入っていないことがわかりますね。
成分の一つの麻黄は、大きいくくりでいうと咳止め薬ですが、正しくは鎮痙薬で気管支を拡げる薬です。
また、温める生薬の組み合わせなので寒気がない場合には使いにくい。
さらに麻黄は、胃に負担になることもあるので、食欲がない場合もできれば避けたい。
交感神経の興奮作用もあるためバセドウ病の方にも相性がよくないです。
そうすると、「カゼには葛根湯・・・?」となってきませんか?
そこで一般的なカゼに誠芳園でオススメしているのは参蘇飲(ジンソイン)です。
同じ様に参蘇飲の構成生薬を見ると
紫蘇葉 前胡 葛根 半夏 桔梗 枳殻 木香 陳皮 茯苓 人参 甘草 生姜 大棗
の13種類からできています。
紫蘇葉 陳皮 葛根 生姜 ・・・・・・・・解表作用 半夏 前胡 ・・・・・・・・・・・・・・・鎮咳作用、ムカムカを抑える 桔梗 枳殻 ・・・・・・・・・・・・・・・去痰作用 陳皮 枳殻 人参 木香 生姜 大棗 ・・・健胃作用 |
この薬は1年中を通して普通のカゼに使うために作られたものです。
山本巌流第三医学では普通のカゼには参蘇飲、胃腸型のカゼには藿香正気散が第一選択薬になります。
半夏と前胡で咳を抑えて、桔梗・枳殻でタンを抑えて、
紫蘇葉 陳皮 葛根 生姜で発熱や頭痛、肩こり、筋肉痛、関節痛などに対応しています。
葛根・前胡は胃にこたえる場合がありますが、
陳皮・枳殻・人参・生姜・大棗・甘草・木香などの胃腸薬も入っているので
胃腸を傷つけずに、むしろ状態を良くしてくれます。食欲もでます。
妊娠中でも安心して使えるカゼ薬です。
もちろん他の症状があれば
煎じ薬では生薬を加減したり、エキス剤では合方して使っていきます。
参蘇飲については錠剤タイプもありますので使いやすいのも特徴です。
「カゼには葛根湯」から「カゼには参蘇飲でしょ!」と広がればいいなと思っております。
もちろん保温と安静は大切です。
今、いろんなカゼやインフルエンザが大流行していますが、皆様すこやかにお過ごしください。
甘草はどんな生薬?その効果と副作用(2025/2/15更新)
今回は多くの漢方処方に含まれる甘草について書いてみます。
甘草は、漢方薬だけでなく食品、化粧品など、私たちの生活の中で広く利用されている生薬です。
その甘みや健康効果から、古くから重宝されています。
青森県民食「スタミナ源たれ」にもしっかり入っています。
甘草はマメ科の植物で、薬用にはその根や地下茎が使われています。
砂糖の約50倍の甘みがあるというのですから驚きですよね。
早速、今回も生薬の『薬効を知る』をテーマに、甘草の効果を書き出してみます。
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◎甘草の効能・効果
①胃腸の働きを良くし、体の元気を益す
気力や食欲が少ない、下痢しやすい、元気のない者に人参、白朮、茯苓などを配合して用います。
この場合には炙甘草を用いると効果がよいといわれます。
※炙甘草は、切断した甘草を鍋に入れ、数分間加熱(炒る)したもので、
(しみこむ程度のハチミツと少量の水を加えることもあります)
気力回復・食欲増進・鎮静効果が発現し、心悸亢進、不整脈などの症状に用います。
②心悸亢進を鎮める、潤燥・鎮静作用
発汗過多あるいはエネルギー代謝亢進などの原因で体内水分量が減少して
心悸亢進、脈結代(=急に脈が飛ぶ不整脈)を起こしたときに使用します。
人参、麦門冬、地黄、桂枝と併用 例)炙甘草湯
また大棗などと配合してヒステリー状態の神経症状を緩和します。大棗、小麦と併用 例)甘麦大棗湯
③筋肉の痙攣や痛みを止める
消化管のれん縮性疼痛、胆石症・尿路結石症などの疝痛発作や骨格筋の痙れんに用います。
芍薬と併用 例)芍薬甘草湯
④咽喉の腫痛、瘡瘍の腫脹などに用いる‥‥生甘草を用いる
甘草は生で用いるとよく熱を下し化膿を抑えるため、
金銀花、連翹、蒲公英などの清熱解毒の薬と配合して使用する。
咽の痛みや腫張には桔梗、薄荷、牛房子を配合して用います。桔梗と併用 例)桔梗湯
⑤咳嗽、喘息に用いる‥‥生甘草を用いる。
肺熱の咳嗽、粘稠で切れにくい痰を伴った咳嗽に用いる。
上気道炎、気管支炎に杏仁、貝母などと併用
⑥緩和、解毒に用いる
甘草は国老と呼ばれ、非常に多くの方剤中に他の薬物を配合して緩和と矯味薬として用いられています。
寒薬と用いると寒を緩くし、熱薬と用いれば熱を緩くする。行き過ぎないようにしてくれます。
また、百薬の毒を消すといわれ、
大黄服用による腹痛、炮附子の副作用、アルコールによる肝障害などを軽減します。
◎甘草の副作用について
まず初めに、漢方薬は副作用が無いと思われていることが多いように思います。
症状に対しての効果を目的にしたものが「主作用」で、それ以外に影響するものが「副作用」です。
どちらも薬が持っている性質ですので、副作用の全く無い薬はありません。
漢方薬は「副作用が無い」のではなく、「副作用が出ないように組み合わせる」のが漢方なのです。
例えば、今回の甘草でいうと潤燥作用という潤す効果があります。
これは「グリチルリチン酸」という成分に基づいていて、
用量によっては『偽アルドステロン症』という顔や足が浮腫んだり、血圧が上がる場合があるとされます。
誠芳園では甘草の比率の多い処方は短期間しか使わず、逆に長期間使う処方には甘草の比率を少なくします。
さらに利水作用のある生薬をたくさん組み合わせていきます。
新井先生は40年間漢方の道を歩まれていますが、
偽アルドステロン症のような血圧上昇やむくみなどを生じたご経験はないそうです。
それくらい気を付けて生薬を組み合わせています。
ただ注意すべきは、
頓服で使う芍薬甘草湯や短い日数で使うべき桔梗湯などを
1日3回、しかも長期間で使うようなあり得ない使い方をすることです。
水はけの悪い浮腫みがちな方では少量でも具合が悪いことがあります。
体質を考えずに自己判断で多く使うことも注意しましょう。
店頭ではよくぜんざいを例にお話をします。おもちとアンコが美味しいあのぜんざいです。
おもちは身体にとって良いことずくめですが、身体に水をたくわえる性質があるんですね。
それに合わせるアンコ(小豆)が利水作用を持っているので、いくら食べてもむくまない。
まさに組み合わせの妙と思います。
これと同じことを漢方薬でもしているんですね。
漢方薬のおよそ7割に含まれると言われる甘草、知らなかった効果もあるのではないでしょうか。
副作用があると聞くとどうしても怖い気持ちが大きくなると思います。
ですが、生薬一つ一つに役割があって組み合わせていることを知っていただき、
必要以上に怖がらずに、より親しみを感じていただけると嬉しいです。